獣害対策

【ヌートリア被害】ヌートリアによる農作物被害と対策

 ヌートリア(Myocastor coypus)はネズミ目 ヌートリア科 ヌートリア属の大型齧歯類の動物です。南アメリカ原産で、日本には毛皮の原料とするために導入されました。繁殖力が高く、農業や生態系等に甚大な被害を与えるため、特定外来生物に指定されています。日本では西日本を中心に生息しており、分布は拡大傾向にあります。

記事の内容

・ヌートリアについて

・ヌートリアによる農作物被害の特徴

・被害対策方法

ヌートリアについて

 ヌートリア(Myocastor coypus)はネズミ目 ヌートリア科 ヌートリア属の大型齧歯類の動物です。ヌートリアの体毛は濃いグレーで、暗褐色から黄褐色の長く光沢のあるガードヘア(刺し毛)で覆われています。また、特徴的な黄・赤褐色の大きな切歯があります。後足の第1〜4指の間には、よく発達した水掻きがあります。

分布・移入経緯

 ヌートリアは南アメリカ大陸、赤道南部の温帯地帯が本来の生息地でしたが、毛皮養殖のために北米やヨーロッパ・ロシア・中東・アフリカ・日本などで導入され、各地で逃げ出したり放出されたりして、野生化しました(LeBlanc,D.J., 1994)。

 日本でも、第二次世界大戦の頃に軍服用の毛皮を生産する目的で移入され(朝日,1980)、4万頭もの個体が飼育されていました。戦後には食用獣・毛皮獣ともなる家畜が必要とされるなか、ヌートリアは繁殖力が高く、死亡率が少なく、大人しく飼育しやすい有用獣として扱われていました(三浦,2003)。

行動圏

 ヌートリアは流れが穏やかな河川や湖沼・農業用水のため池などに生息し、ほとんどは水辺周辺に生息しています。水辺周辺に巣穴を中心とした行動圏を持ち、行動圏の面積は1ha~54.2ha(MCP)です。

繁殖生態

 ヌートリアは特定の繁殖期を持たない多回発情種で、年2〜3回発情します。発情間隔は24〜26日、妊娠期間は127〜132日です。野生個体群の胎児数は1〜12頭(平均5.87頭)と高い繁殖能力を持っています。水辺でも授乳できるように、乳頭は体側のやや上方に並んでいます。

 ヌートリアの成獣の妊娠率は鳥取県倉吉市では83.3%,アメリカ(ルイジアナ州・テキサス州)では85%以上と高い妊娠率です(Runami et al., 2013, Evans, 1970)。一腹産子数は1〜13頭で,鳥取県倉吉市では平均6.5 ± 2.4頭,岡山県では平均5.87頭と報告されています。

食性

 ヌートリアは草食性の哺乳類で、草本類や水草類・木本類などの植物を採食します。イシガイなどの淡水性の二枚貝を採食する例も報告されています。草本類・水草類ではイネ目、オモダカ目、ガマ目、カヤツリグサ目、キク目、キジカクシ目、シソ目、ショウブ目、スイレン目、ツユクサ目、ナス目、フトモモ目、マメ目などの採食記録が報告されています(石田ほか,2015,久米ほか2015,森,2005)。

ヌートリアによる農作物被害

農作物被害金額

 ヌートリアによる農作物被害はイネ被害が最も多く、果菜類や葉菜類・根菜類などにも被害が発生します。令和元年度のヌートリアの農作物被害(全国)はイネでは2,177万円、野菜類では1,718万円発生しています(農林水産省 農作物被害状況)。

 私の菜園では水辺から少し離れているためかヌートリア被害は発生していませんが、付近で頻繁に目撃されているため出没状況に注視しています。

ヌートリア被害対策

電気柵(ネットタイプ)

 電気柵のネットタイプはネット柵に電線が織り込まれているため、電線の高さに気を配ることなく設置することができます。電気柵はヌートリアが柵線に触れることで電流が流れる仕組みです。設置場所の地面が乾いていたり、コンクリートやアスファルトである場合は、通電性が低くなるため、通電性のある素材を敷く必要があります。アースは湿った場所に深く埋め込み、間隔を空けて設置します。

参考文献

  • 朝日稔. (1980). ヌートリア-ほんろうされた毛皮獣. 川合禎次・川那部浩哉・水野信彦,編:日本の淡水生物―侵略と撹乱の生態学. pp. 99-105.東海大学出版会,東京.
  • 江草佐和子 & 坂田宏志. (2009). 兵庫県におけるヌートリアの農業被害と対策の現状. 陸水学雑誌70(3), 273-276.
  • Evans, J. (1970). About nutria and their control (Vol. 86). US Bureau of Sport Fisheries and Wildlife.
  • 石田惣, 木邑聡美, 唐澤恒夫, 岡崎一成, 星野利浩 & 長安菜穂子. (2015). 淀川のヌートリアによるイシガイ科貝類の捕食事例, および死殻から推定されるその特徴. Bulletin of the Osaka Museum of Natural History69, 29-40.
  • 金森弘樹. (2016). 島根県におけるヌートリアの生息分布域の拡大と被害の実態. 島根県中山間地域研究センター研究報告, (12), 21-28.
  • 久米学, 小野田幸生, 根岸淳二郎, 佐川志朗, 永山滋也 & 萱場祐一. (2012). 木曽川氾濫原水域における特定外来生物ヌートリア (Myocastor coypus) によるイシガイ科二枚貝類の食害. 陸水生物学報 (Biology of Inland Waters)27, 41-47.
  • 栗山武夫, 高木俊. (2020). 兵庫県の外来哺乳類の生息と農作物被害の動向. モノグラフ12:1-23.
  • LeBlanc, D. J. (1994). Nutria. The handbook: prevention and control of wildlife damage, 16.
  • 森生枝. (2005). 岡山県自然保護センターにおけるヌートリアの食性. 日本生態学会大会講演要旨集 第 52 回日本生態学会大会 大阪大会. 793-793.
  • 三浦貴弘. (2003). 移入動物ヌートリアの分布拡大と被害問題. 奈良大学大学院研究年報. 8, 138-146.
  • Runami, I., Gunji, Y., Hishinuma, M., Nagano, M., Takada, T. & Higaki, S. (2013). Reproductive biology of the coypu, Myocastor coypus (Rodentia: Myocastoridae) in western Japan. Zoologia (Curitiba)30(2), 130-134.